よせ、ぶつかり、噴騰するが、暗褐色の直流する水勢の凄さは、海の荒波の如きは、なんの抵抗にもならないのである。荒波のさわぎを眼下にしたがえて、暗褐色の一直線の水流は海面上数米の高さにモックリとはるか水平線に向って長蛇の如くに突入している。遠く沖合に、荒波がこの防波堤に突き当って、噴騰し、山となって盛りあがり、シブキをあげているところもある。
しかし、より以上に呆れるのは、ゴロゴロと、河底一面しっきりなしに遠雷がとどろいている音響である。何千何万の戦車が河底をしきならべて通っていても、これほどの音ではない。アスファルトの路面を通る戦車のつぶれたような通過音とちがって、こもりにこもった轟音である。
私はこの音のイワレを理解することができなかった。数日後に水がひいて、河底が露出するまでは。
洪水前までは小砂利だけしかなかった河底が、一面に、数百貫、時に千貫の余もあるかと思う岩石でしきつめられ積み重なっているのだ。それは遠く太平洋の海底に、一哩ちかく突入しているに相違ない。河底の轟音は、この岩石が山から海へぶつかり合って無限に突入してくるその音であった。洪水がすむと、河底にはトロッコがひき
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