我が人生観
(五)国宝焼亡結構論
坂口安吾

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)跫音《あしおと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)千|米《メートル》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)事実[#「事実」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)チョロ/\
−−

 小生もついに別荘の七ツ八ツ風光明媚なるところにブッたてようという遠大千万なコンタンによって「捕物帳」をかくことゝなり、小説新潮の案内で、箱根の谷のドン底の温泉旅館へ行った。
 このへんは谷川といっても川の趣きではなくて、流れの全部が段をなした瀑布であり、四方にはホンモノの数百尺の飛瀑も落下している。音があると思う人には、これぐらいウルサクて頭痛の種のところもないかも知れないが、無神経の私には、こんなに音のないところはなかった。隣の話声も、帳場のラジオも、宴会室のドンチャン騒ぎも、蝉の声も、一切合財、きこえない。女中が唐紙をあけてはいってくるのが、跫音《あしおと》も、唐紙をあける音もきこえないから、忽然として、女
次へ
全21ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング