そして、その報いのやうに私を抱きすくめようとするのであつた。私はそれがにくらしかつた。それはまるで、自分にはない精気や魅力を私にミン平から吸ひとらせて、その借り物で自分がたのしまうとするやうな老獪《ろうかい》な魂胆に見えた。そこで私があからさまに彼の腕を押しのけて、そんな老獪な助平たらしい魂胆はイヤダ、とズケズケ言つてやると、
「自分の浮気をうまいぐあひにおれに背負はせやがる」
 彼はせゝら笑つて、とりあはなかつた。なるほど、さうかも知れない。私の浮気はいけないことかも知れないが、それをしやべらせて、酒のさかなに、そして、酔つたあげくの遊びの足場にするなんて、見えすいて、いやらしい。
 私は腹を立てると、寝床から逃げて、どんな冬でも、寝間着一つで戸外へとびだしてしまふほど、怒つてしまふ。彼の慾情は、いつも、私を苦しめた。

          ★

 ミン平の姿を追つてアパートへ行つたが、まだミン平はもどつてゐなかつた。管理人の鍵をかりて、部屋へあがつて待つてゐると、ミン平は、目がすわるほど蒼白に酔つてもどつてきて、入口の扉によろけて、のめりこんだ。
 彼は起き上つて、扉に鍵をかけた。
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