らう」
 木村は太ッ腹のやうでも、やつぱり出て行く女のことではケチであつた。彼は手切金をくれるなどゝはオクビにもださなかつた。私がミン平のところへころがりこむと、ミン平はたぶん生活できないだらう。なぜなら彼の生活費の大部分は私のオゴリで維持されてゐる状態だつたからである。私が木村と別れゝば、彼は酒も飲めなくなるのだ。
 私は然し、この結婚が失敗だつたといふことについても、実のところ確信がなかつた。女は三十ぐらゐになると、だんだん肉体の快感を覚えるやうになるのぢやないか、すくなくとも、私の場合は、と考へることがよくあつた。年齢的なものだつたら、どんな美男子と結婚しても、同じことではないか。目下、結婚に失敗してゐるのは、私ではなくて、木村で、ミン平にお酒を飲ませて寝顔をながめてたのしんで、それを平気でノロケてゐる私の方が悪妻なのかも知れない。然し、結婚前からの行きがゝりで、さういふ我儘に彼の方が私を育てゝしまつたのだから、私だけが悪いわけでもなかつた。
「私は結局浮気なんかできないたちよ。あなたを裏切る度胸がないのよ」
「ふうん」
 木村は苦笑した。そして私にそんな話をさせながら酒を飲み、
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