いくらか赤みがさして、安らかな翳がうかんでくる。その寝顔は、私をいつも切なくした、時には、いやらしいやうなてれた顔で、マダム、などゝ、しなだれかゝるやうに私の手を握りかけたりすることもあつたが、ダメよ、そんなこと、といふと、
「フン、フン」
 彼はいつも変なふうに苦笑して、ネドコへもぐりこむ。そして、すぐ、眠つてしまふ。私は二三十分、彼の寝顔に見とれて、帰つてくるのだ。
 結婚前にキタ助やサブ郎などゝ遊んでゐた時からの習慣で、私が一日の出来事をあからさまに話すのを、木村は面白がつてきいてゐた。
「ふうん。あいつは性慾がないのかな、虚弱だと、色情もないものかなあ。オレには信じられん。でも、お前だつて、ちよつと、しなだれかゝつて手を握られたりすると、内心は放したくないのだらう」
「さうぢやないのよ。いやらしいと思ふときは、どんな好きな人とでも、いやなものよ」
「ふうん」
 木村も、二人の結婚は失敗だと思つてゐた。私に好きな男があつたら、結婚しても差支へないと考へてをり、それはつまり、彼自身、ほかのだれかと結婚したくなつてゐるせゐであつた。
「ミン平さんは私を養つて行けるかしら?」
「ダメだ
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