と、きらひなのよ、私はからだが不健全かもしれないけれど、快感なんか、感じたことはなかつたのよ。男と女が、そんなこと、しなければならないことが、私には判らないのよ。そんなことをしなくとも、私は幸福だから。今日みたいに、ミン平さんと腕をくんで歩くだけで、胸がギリギリして、全身がボウとしてしまふのよ。私の感覚は十七、八の不良少女よ。それッきり発育がとまつてゐるのだわ。だから、よその奥さんだの芸者さんが肉体の快感のことなどいふのを聞くと、いやらしくて、やけるのよ。そのくせ、私ときたら、電車の中だの往来だので、美男子の顔を見ると、何かにグイグイ押しあげられるやうにボウとしてしまふのだから」
 ミン平は不機嫌な顔をして、だまつてゐたが、
「おれは帰るよ」
「うん、まつて。送つて行くから」
 私が勘定を払つて出ると、ミン平の姿は見えなかつた。彼の姿を追つて、私は彼のアパートへ行つた。
 私はミン平の寝顔を見たことは何度もあつた。私はちかごろ、ミン平にお酒をおごつてやつてアパートへ送つて行くことが、私の生活の第一等のよろこびになつてゐた。彼はからだが衰弱してゐるので、酔ふと、すぐ、眠つた。疲れた顔に、
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