私と木村に酒をさした。そして
「行末、なんとなく、幸福で、ありなされ」
と、いひ残して、自分の席へふらふらもどつて行つた。
★
木村がミン平を可愛がるやうになつたのは、それからだつた。ミン平には気骨があつた。彼はだれの前でも幇間じみることなどはミジンもなかつた代りに、いさゝか、酒癖が悪かつた。きらひな人には面と向つて罵りたてる。
そのくせ腕力がないから、よく、なぐられる。ほゝを三寸もきられたこともある。翌日は氷でひやして、ネドコで、ホータイの中の目と口でクスリと苦笑して、てれてゐた。いつも、てれてゐた。
小男で、貧相で、見るからに風采の上らぬのんだくれの、人生のあぶれ者の感じであつたが、よく見ると、美しいのだ。顔立も薄くすきとほるやうで、リンカクがキリリとしてゐて、幼さと、気品があつた。貧相なくせに、傲慢で、不屈な骨格が隠されてゐた。その美しさをジッと見ると、私はいつも息苦しくなり、からだがキシむやうな気持になつた。
木村から、かういふ興奮を受けたことは一度もなかつた。私はやッぱりオメンクイなのだと思つた。私は結婚に失敗した。否、ひねくれてゐた。ともか
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