がなかつた。みんなの前で木村の首ッたまに抱きついてやりたいぐらゐ、この結婚を誇りにしてゐたものである。
 そのとき騒ぎの中で声がした。
「新婦は新郎にセップンしろ。みんなの前でやれ。やれやれ。たのむ」
 ミン平であつた。私はそのときまで、ミン平の名前はきいてゐたが、顔は知らなかつた。私はキタ助とサブ郎は婚礼に招かなかつた。その代り、一面識の一座の面々の重立ちを招いたのだ。彼等は酒が飲めるから大喜びで、招かれない四、五人までわりこんできた。ミン平はその一人だ。彼は脚本書きだつた。私は色男然としたキタ助とサブ郎が、招待されずに、口惜しがつたりやいたりしてゐる様子が愉快でたまらなかつた。私は彼等に弱い尻は握られてゐない。私は役者に入りあげる遊びをたのしんでゐたが、彼等と泊り歩いたことは一度もなかつたのだから。
「やつてくれ。セップン。たのむ」
 ミン平は執拗につゞけた。彼は酔つて目がすわつていた。
「新婦エレイゾ。ほめてとらせる。今日の新郎も気にいつた。役者なんて、人間ぢやないから。キタ助やサブ郎のイロになつて満足なら、わたしはお前さんを大いに軽蔑するはづだつた」
 彼は私たちの前へ坐つて、
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