が、どの芸者とも関係したことがなかつた。さういふことが、私の娘心にひどく、こたへた。
私はそのころ、キタ助だのサブ郎などゝいふ六区の役者と友達で、木村からもらつたお金で二人にお小遣をやつたり、着物をこしらへてやつたり入りあげるやうなふうを楽しみに遊んでゐたが、木村はキタ助やサブ郎を座敷へよんでヒイキにしてくれて、ちつともこだはらなかつた。
キタ助だのサブ郎は役者根性で、座敷へよばれてお金をもらつたりすると、すぐヘイツクばつて自然に幇間《ほうかん》になつてしまふ。そのくせ蔭で木村の悪口を言ひ、いかにも自分たちが色男で女にもてる性で、自分たちをヘイツクばらせて三文の得にもならず金も女も失ふばかりの木村は馬鹿野郎だとせゝら笑つてゐる。私はさういふ河原者根性に反感をもつた。そして、座敷でヘイツクばつてゐる彼等のみすぼらしさがいやらしくて堪らなくなつてしまつた。
私は周囲のあらゆる反対を押し切つて、急に、押しかけ女房みたいに、私の方から勇みたつて木村と結婚してしまつた。私達の婚礼は戦争中だが盛大極まるもので、私は三十分おきぐらゐに着物を着換へて現れて、満座の注目を浴びるのが、うれしくて仕方
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