、総決算だ。さうぢやないか。オレみたいのノンダクレでも、毎日同じことをしてゐるうちには、いゝ加減、あきあきするよ。地獄へ行かう。散歩に、行つてみたくなつたんだ。オイ。ノブ子。からだをかせ」
ミン平は小さな肩をせりあげて、ポケットへ手をつッこんだまゝ、どしんと体当りした。それからポケットから手を抜いて、私を白々とした顔でにらみながら、抱きしめようとした。
私は胸が痛むほど、すくむほど、悲しいほど、うれしいやうな気がしたのだ。そのくせ私はミン平の傲慢な顔つきに、むらむらした。だつて、さうではないか、傲慢で、いゝのだ。せめて、お前が好きだ、といつてくれなければ。どんなに高慢ちきに私を抱きすくめてくれてもいゝのだ。お前が好きだといふ思ひのたけが、高慢の虚勢の裏から女の心を慰めてゐてくれなければ、ひどすぎる。
私と彼は同じぐらゐの身の丈だつた。酔つ払つた彼よりも、私の方が敏活にきまつてゐた。彼はいきなり接吻しかけた。私は怒りがこみあげた。私は彼をつきとばした。
「なぜ、鍵をかけたのよ。コソドロみたいな、三下奴《さんしたやっこ》みたいな、口説き方はしないでよ。あなたみたいな青二才にナメられた
前へ
次へ
全19ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング