必要欠くべからざる根柢の一事は、たゞ、各人の自由の確立といふことだけだ。
 自らのみの絶対を信じ不変永遠を信じる政治は自由を裏切るものであり、進化に反逆するものだ。
 私は革命、武力の手段を嫌ふ。革命に訴へても実現されねばならぬことは、たゞ一つ、自由の確立といふことだけ。
 私にとつて必要なのは、政治ではなく、先づ自ら自由人たれといふことであつた。
 然し、私が政治に就てかう考へたのは、このときが始めてゞはなく、私にとつて政治が問題になつたとき、かなり久しい以前から、かう考へてゐた筈であつた。だが、人の心は理論によつてのみ動くものではなかつた。矛盾撞着。私の共産主義への動揺は、あるひは最も多く主義者の「勇気」ある踏み切りに就てゞはなかつたかと思ふ。ヒロイズムは青年にとつて理智的にも盲目的にも蔑まれつゝ、あこがれられるものであつた。私は当時ナポレオンを熱読したものだ。彼がとらはれの島で死の直前まで語つた言葉の哀れ呆れ果てた空疎さ、世にこれほどの距離ある言葉、否、言葉自体が茶番の阿呆らしさでしかない。私の胸の青春は、笑ひころげつゝ、歎息し、時には涙すら滲んだ夜もあつた。言葉にのみイノチを見
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