暗い青春
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)萃《あつむ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)長島|萃《あつむ》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)トボ/\
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まつたく暗い家だつた。いつも陽当りがいゝくせに。どうして、あんなに暗かつたのだらう。
それは芥川龍之介の家であつた。私があの家へ行くやうになつたのは、あるじの自殺後二三年すぎてゐたが、あるじの苦悶がまだしみついてゐるやうに暗かつた。私はいつもその暗さを呪ひ、死を蔑み、そして、あるじを憎んでゐた。
私は生きてゐる芥川龍之介は知らなかつた。私がこの家を訪れたのは、同人雑誌をだしたとき、同人の一人に芥川の甥の葛巻義敏がゐて、彼と私が編輯をやり、芥川家を編輯室にしてゐたからであつた。葛巻は芥川家に寄宿し、芥川全集の出版など、もつぱら彼が芥川家を代表してやつてゐたのである。
葛巻の部屋は二階の八畳だ。陽当りの良い部屋で、私は今でも、この部屋の陽射しばかりを記憶して、それはまるで、この家では、雨の日も、曇つた日もなかつたやうに、光の
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