、頭脳メイセキの片リンぐらいのぞかせる心得が必要であったようだ。あいにく徹夜の仕事を終えたところで、アンマの到着を待つところへ、アンマサンの代りに写真屋サンが一足先に到着した次第であるから、アンマの先着者のために顔など洗うわけには参らん。しかし、アンマの方がおくれたために、アンマにもまれつつある写真でなかったのがまだしも取柄であったろう。
 それにしても、この写真には、おどろいたな。死刑囚だね。
[#易者用の写真(fig45923_01.png)入る]
 死刑囚の閑日月としか見えない写真に、良いような、悪いような、良いような、その物ズバリ的なところもある目の肥えた判断を下した桜井さんは相当な手腕家だな。
 彼はこの写真の主《ぬし》の職業をどう考えたであろうか。この写真の主が私であることは、たぶん知らなかったろうと思う。
 そして、写真を見せて身の上判断を依頼したのが文藝春秋記者であり、それが読物に用いるためであることまでは分ったが、いかなる内容の読物だか分らないし、写真の主の名も身分も教えてくれないとすると、彼はこの人物の職業身分を自分で考えなければならないし、その点に関して一応の推測
前へ 次へ
全28ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング