家庭的ではない。是非一度実物に会ってみたい興味を覚える。
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私が徹夜の仕事をしてフラフラしている朝方にオール読物の廻し者の写真師が来て、易者用の写真をうつします、という。
写真をうつすに身ダシナミが大切なのは見合写真と相場がきまったわけではない。我々の場合は特に例外なく人目にさらすための写真だから、身ダシナミは云うまでもなく、技をこらしポーズをつくり、大いに衆目をだまさなければならないのだが、そういう心得については欠けることがないのだけども、一度も実行したことがない。写真屋来るというので、顔を洗い、ヒゲをそり、着物をきかえたタメシがないのである。たった一度文藝春秋誌の何とかの百人という写真の時だけ、ハダカで仕事をしていたところ、流れる汗をこらえて着物をきるというムリをした。ムリのおかげでわが生涯にたッた一度のマトモの写真ができたのである。心がけ、というものは日ごろ心得があるだけではダメなものだ。実行しなければ意味をなさんものである。
易者に見せる写真だというから、天性の麗質を強いて現す必要もないが、せめて顔を洗い、目を涼しくして
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