初めは多少伸び悩むが、五十六、七にして大を成す人である。若い時から苦労とか経験とかいう点には遺憾がないから、それが仕事の上に生きてくるのである。額を観ても苦労が身についた人と云える。
 この人の四十台までを災いしたものは、その大部分が家庭的問題である。尤も家庭的に種々煩雑な点は一生涯を通じてのものではあるが、四十台以後は非常に勢い盛んな時であるから、それを押し隠してしまうのである。しかし、年と共に環境の寂しさが増すという点は、特に附言しておく。
 性格としては他人には大いに良く、義気もあるが、又一面、非常に細かく物を穿鑿する癖もある。所謂、外面がよく内面の悪い人である。言動は派手で勇ましいが、内心では常に細心の注意を怠らない人でもある。
 人を大勢使うという人相ではないが、賑やかなことが大好きな人である。
 長生きをする吉相もあるが、恋愛をすれば必ず苦労する相をも併せ持っている。
 最後に総括すれば、善悪二相が極端に現れ、二十四五、三十二三、三十七八には手痛い苦しみをし、これからも紆余曲折の生涯を辿る人ではあるが、仕事は立派に成しとげ、世間のためになる人物である。しかし孤独であるが故に
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