てルル説明したという常軌を逸したかのような挙止のみをとりあげてトヤカク云うのは甚しく当りません。常軌を逸したところでやむを得んじゃないか。そんな執るにも足らぬ一場の挙動の如きよりも、彼が思索を重ねて後に施したこの処置と、その裏にアリアリと汲みとることのできる悲痛にしてケナゲな心事を思い至れば、すでに足りる。これに同感の涙を知らぬヤカラは、いまだ人間の苦悩について真に思い至らぬ青二才だよ。イヤ、失礼。苦悩など知らぬ方がいいかも知れません。苦悩を知らぬ青二才でたのしく一生を送れる方がたしかに幸せですよ。スミマセン。
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華頂氏が離婚届をだしたところまでは、実に尋常で、立派であった。
それに対して、華子夫人の兄、閑院春仁氏がすすんで手記を発表した。そこからフンキュウがはじまるのである。
閑院氏は手記によって「長年暮した平和な夫婦が単に性格の相違によって離婚することがありうるだろうか。その裏には怪人物がいる」ことを明にして、離婚の原因が妹のスキャンダルによることを恐れる風もなく発表したのである。
それはたしかにただ外見から見た感じでは「恐れる風もなく」と解せざる
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