安吾人生案内
その七 宮様は一級紳士
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)併《しか》し

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 華頂博信氏手記[#「華頂博信氏手記」は太字]
 私どもの離婚は決して夫婦喧嘩ではありません。私は廿五年間命をかけて妻を愛していました。それだけに離婚の決意は、七月十八日夜自宅のクローク・ルームで戸田氏と華子との姿を発見して以来の妻の思想と言動に就いて冷静な判断を下した上でなされたものです。妻はこの事件に対して少しも悔悟して居りません。
 否、寧ろ今後も婦人衛生会の仕事に名を借りて戸田氏との接触を計ろうとしているのです。私の妻は一体誰なのか――。終戦後貴方は貴方、わたしはわたし、夫婦とは単なる男女の同居という家庭が相当あるらしい。それもそんな家庭生活を喜ぶ夫婦ならばそれで済むだろう。併《しか》し私には向かない。何か自由ということのはき違えではないだろうか。自由ということを掘下げてゆくと、真の自由は自律的には随分不自由なものではなかろうか。
 わず
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