思う。しかし、人さまざまと同じく宮様もさまざまに極っているから、その課せられた宮様の生き方を正しくマットウに生きる人が全部だとは云えない。むしろそれは少数で、多くの宮様は例外の自由を欲するに相違なく、なぜなら、それが人間の自然の慾望というものだからである。
 今回の場合に処した華頂氏は、あのヒゲの老宮様の愛すべくなつかしい人柄に近いものを感じさせる。しかしヒゲの老宮様とちがってまだ若い華頂氏がもっと生々しい人間苦の中に住まねばならぬのは当然で、しかも激しい苦悩と混乱のあとに「真の自由は自律的には不自由なものだ」と思索的に結論を得た良識は、実にいじらしく愛すべく、また賞讃すべきではありませんか。
 そしてかような結論の後に、去る妻をあくまでイタワリつつ断乎たる離婚に至った彼の処置に対し、その心事に対し、私は敬服の念と共に、同感の涙を禁じ得ませぬ。そのほかにも、他の良い処置はあるかも知れませぬ。しかし、ここまでなされば、タクサンだ。これ以上に為し得る人間が果して幾人おりますか。わが身を思えば、これ以上の処置などきいた風なことはとても云えない。
 華頂氏が新聞記者をスキャンダルの現場へ案内し
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