れませんね。
しかも華頂氏は裏切って去る妻にこれだけ厚いイタワリをよせながら、宮内庁の長官に対して「たとえ天皇さまが皇族全体の名誉のために離婚を思いとどまれと仰有っても私はお断りします」と云ってるのだ。その心事、その決意の程は悲痛である。
かくも妻をいたわりつつ、かくも堅く離婚を決意するまでに、華頂氏は思索の時間を経た。そして「自由ということを掘り下げてゆくと、真の自由は自律的にはずいぶん不自由なものではなかろうか」という結論に至って、それが離婚の堅い決意、ならびに去る妻への限りなき愛惜とイタワリとなって表れたもののようだ。
まさしく氏の思索の結論の通りであろう。真の自由というものは、自律的にはずいぶん不自由なものであろう。まったく同感である。恐らく一個の人間が味う絶望混乱の最大と思われるものを経た直後に、かような思索に至り得た氏の教養は賞讃に価するものと云えよう。世渡りはヘタでも、これだけの教養があれば、さすがに宮様、見事であると申さねばならぬ。私は巣鴨の戦犯収容所へ入れられたことのあるオヒゲの長いふとった御老体の宮様を思いだしましたよ。あの人柄は誰だって憎めません。もっとも宮
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