惑乱の波にもみまくられる性質の人々であろう。彼らがその逆上を押え得て後に施す方法には大きな変りがあるであろうが、逆上のすさまじさは同じようなものであろう。いかに智徳が高くともこの逆上惑乱は防ぐことができないし、またそのために愛すべきところもあるのであろう。
 華頂氏はその逆上惑乱絶望を抑え得て後に施した方法は立派であったと申さねばならぬ。即ち、性格が合わないという理由によって、合意の上で離婚届をだした。それに先立って、華子夫人が謝意を表して悔い改めはしないかと試してみたが、そうでないことが分ったので、相談の上、離婚届をだしたという。しかも子供は華頂氏がひきとり、華子夫人は一人身になって財産の一部も貰うという。実によくぞ我慢したのみならず、よくぞ我を裏切れる人にイタワリをよせたものよ。まことに敬服にたえません。私などは、とてもこうはできない。秀吉などは何をやるか分らんし、かなり温和で常識的な家康でも自分になびかぬというだけでジュリアおたあを島流しにしたほどだから、とてもこうはできない。
 もっとも時代の相違があるから、家康が今日の日本の元貴族であった場合は、華頂氏に近い解決法をとるかも知
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