を敢て行う筈がないのに、彼だけが敢て行ったという、その異常さの裏には、彼の性格的なものよりも、他に適当な手段を知らぬ切なさ、その立場の哀れさを見てやるべきである。
私がかくも彼を弁護するには理由がある。彼は離婚された当事者ではないのである。離婚された当人がなんとかして元の巣へ帰りたくてやった非常手段と違う。そういうヤブレカブレなものではない。
私は決して上流階級の生れではないが、まア中流階級の上の部ぐらいの家に生れた。そして私の身辺に見た田舎の上流階級の内情や人情というものは、離婚された娘や妹の身のふり方や将来ということよりも、一家一門の名誉だけを考え、そのためには、たとえ娘や妹に正理があっても家名のために彼女の一生や幸福をふみにじるのは辞せないものだ。すくなくとも私が目にした田舎の上流階級とは全くそういうものである。
そういう田舎の上流階級の一般の気風にくらべれば、閑院氏の非常手段の裏側には、わが身と同じように妹の身のためを思う善意と、マゴコロが感じられるではないか。彼の勇気は、これを異常というよりも、むしろすさまじいまでの愛情であり、善意であり、その勇気の裏には妹に対する愛の
前へ
次へ
全17ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング