ても隠すべきところを隠さぬ、などと誰かが書いていたが、そんなバカなことがあるものか。人間の本性に変りがあるものですか。風呂の中で隠すものを隠さぬぐらい、なんでもない話じゃないか。そんなことと、一家一門のスキャンダルをあばくこととが同じような軽い気持で行われる道理があるものですか。恐らく彼らは一門の上に天皇をいただき、他の誰よりも一門の名誉を損ずることを怖れつつしむよう躾けられ育てられているに極っている。我々にとってこそ天皇もタダの人間だが、彼らにとって天皇はやっぱり神にちかい敬意なくして有り得ない存在に相違なく、そのように一族一門を神の座により近いものと感じがちの彼らが、人一倍一門一族の名誉を考え自分の名誉を考えるように育てられ習慣づけられていることは明らかなことだ。
 記者との一問一答を読めば、彼が甚だ良識ある人物であることは諾《うなず》けるのだが、世上の他の良識ある人間は、このような時、新聞にスキャンダルを公表し一門の名誉を損じても、妹の身のためを計るようなことはしないであろう。他に適当な、そして穏当な方法を探すであろう。
 しかしながら、同じだけの良識ある人々の他の全ての者がそれ
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