らずに逃げだしたから、タタミに足跡がなかった筈である。また、ねている爺さんの頭をナタできりつけ、苦悶して土間へ倒れてのちに大内が後から抱くようにしてクビをしめて殺したと自供したのが事実なら、大内の着衣に血がついていなければならぬ筈である。自分らが犯人であれば以上二ツの自供と食い違うものが生じている筈であると述べています。
 犯行後、小林が四日すぎて捕われ、大内は七日目に捕われた。血のついた着衣の始末をするには充分な時間があったわけだが、着衣に血痕の有無とか、血のついた着衣の処分とかは当然逮捕直後に訊問して証拠かためがあるべきで、容疑者から調査の依頼がなくとも一審の判決前にケリがついており、その調書があるべきであろう。
 タタミの足跡も同断で、現場検視のソモソモの時から足跡の有無や、足跡があった場合にはその特徴等について足型もとっておくなど、誰に頼まれなくとも調査が行きとどいていなければならないでしょうが、その行き届いた調査があったかどうかは不明です。しかし、彼らがその晩たしかに泥足であったことは何によって証明するか。足跡を自ら拭き消してから退散したこともありうる。それは彼らが今日に至っ
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