距離は分りませんけれども、これを持参の袋に詰めかえて被害者宅へ運んできたら深夜の二時になったとしてもフシギではなく、それで話の筋は通っているのではないでしょうか。だいたい浮浪者で窃盗常習者の両名と、そういう人間と承知で取引きしているヤミ屋との取引ですから、普通人の常識や生活に当てはめて訪問の時間が妙だというのは、むしろ彼らの生活の真相を見あやまるばかりで、彼らの供述が世間の常識に反していても彼らの特殊な流儀に於てツジツマが合っていた方が、むしろ嘘がなくてホンモノの供述であるらしいという考え方も成り立つだろうと思います。
 最高裁へ上告に当って彼らがもらしたという四ツの不備のうち、二と三の不備は、自分らが強いられて行った自白のような方法で被害者を殺したとすれば、現場の様子が事実とちがっている筈である。彼らはこう云って相当に重大と見られる反証をあげております。即ち、二人が被害者を訪問したときは泥足のままであるから、もしも自供の如くに室内へあがって彼を殺したのが事実なら、タタミの上に泥の足跡がなければならぬ筈である。ところが自分たちは土間で被害者がすでに屍体となっているのを発見して室内へあが
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