推理されたと思うが、見物人が踊るには不都合にできている。どうせ踊りやしないんだろう、と先方で一人ギメにしているらしい風情なのである。テーブルもイスもあってビールをのもうと思えば取りよせてのめる仕掛だが、ボーイとおぼしき風態の人物がいるわけではない。子供はいるが、彼は戦争中の服装で、誰かがビールをのむことに興味をもっていないようだ。イスとテーブルも兵舎的実用品で、席へつけば一同が実用的な心構えになることを慫慂《しょうよう》されているようである。警官の臨観席の坐り心持であった。イスとテーブルが、私のお尻からささやいて、きびしく命令している。
「よく睨め。ジッと睨め」
そこで私は睨まなければならんのである。
私の眼前には三百人の美姫が楚々として踊っている。私に東京パレスを精密に叙述して一見をすすめた友人(頭に特徴のある人物)は、こう教えた。
「そこには二百人の美姫がイヴニングをきて踊っているです。イヴニング! しかして、全部、美人である! よく揃えたなア。彼女ら二百人の三分の二は、東京のマンナカ、と云えば銀座、銀座のダンスホールの美人とよばれるダンサーに劣るものではないですぞ。ぜんぜん見
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