白百合のような気高い子を招きよせて、石川淳の肩をたたいて、
「この子が君と寝室に於てビールをのみたいと云っている」
彼は心眼によってみんな見抜かれたバツの悪さをあらわさずに、とたんにニンマリと笑みをふくんで、
「や。ありがとう」
と、言った。たった一語、この一語のほかの言葉は有りえないという充足した趣きがこもっていた。
私は人の世話をやいてやって、大失敗したのである。さて、いよいよわが目ざす美姫、黒白ダンダラのイヴニング。ところが、人の世話をやいてるうちに、ほかの男と約束ができて、手オクレであった。
そこで三人の従卒が同情した。
「ヤ、心配無用です。ホールへでていたのは四分の一にすぎんです。四分の三は各自の個室におり、この中に美姫あることは必定ですよ」
そこで美姫をさがすことになったんだがね。アラビヤン・ナイトでも、美姫をさがすのは若い王子様ときまっていたな。ジジイはそういうことはしていなかったなア。思いだすのが、おそかった。
「あなたア!」
といって、女の子がかけよってくる。女の子たちは三人の男の子の手をにぎる。誰一人、私に向って、同じことをする女の子がいないんだね。どの
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