棟のどの部屋の前を通りかかっても、そうなんだ。すべて物事には例外があるということをきいていたが、例外というものは実に絶対にないもんだね。しかし、ここまでは、まだ、それほど深刻な事態ではなかったのである。
三人の男の子は、女の子の手をふりきる。そして大股に歩きすすむ。その時に至ってだね。手をふりはらわれて後にとりのこされた女の子たちは、改めて私の後姿に気がついて、これに向って、こう呼びかけるのである。
「パパ! ちょッと! パパ!」
パンパン街というものは、チョイと、オジサン、というね。これが天下普通で、そう気になる言葉ではないが、パパはひどい言葉だよ。東京パレスの女の子は、必ず、私にパパとよびかけた。かく呼びかけるべく教育されたとしたならば、実に中年虐待。従卒どもはゲラゲラ笑いだしやがるし、しかし、今までウッカリしていたが、パパという言葉は、実際凄い言葉だ。私はヤケを起して、一人の美姫の部屋へにげこんだ。これが、さッきも云う通り、窓が五分の一しかなかったんだね。五分の一というと、まア、六寸さ。しかしウチワであおいでくれたよ。
一時間後に我々は約束のシロコ屋へ集合した。この戦果。私
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