彼はなんと云ったッけな。ア、そうだ、君。編輯者は色々なものを見ておかなければならんぞよ。見るだけでタクサンだ。実行するに及ばん。実行の隣の線まで、よく見てこい。今夜はこの子をつれていって下さい」
「ムムム」
 大胆不敵の巷談師も、この時こまッたのである。自分にできないことを、人に押しつけやがるよ。しかしウシロは見せられない。
「よろしい。しかし、心細いな。ほかに然るべき心ききたる同行者が必要だが、この社の年寄りは酔っ払うと分別に欠けるところがあり勇みに勇む悪癖もあって、全然荷物になるだけだ。しかし、年寄に分別がないと、若い者に分別がつくもんだな。これが教育というもんだ」
 こう云って、よく自然教育された二人の志願兵、これで従卒三人、そろって美青年だったのが大失敗のもとでヒドイ目にあった。
 いつもの巷談では取材の終るまでお酒はのまなかったが、今度はそうはいかない。銀座で酔っ払って、見物席で、目玉をむきながらビールをのむ。
「いい子、いますか」
 分別ある兵隊の一人がきく。
「いる、いる。三人みつけた」
「どれ?」
 隣の女の子が私にきく。
「ええッと。まず、あすこの黒白ダンダラのイヴニ
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