彼女らの唄うものが、益々現代の美から距離をつくってしもう。
 パンパンというものが在る以上は、もっと気のきいた、現代のセンスに直接な在り方がなければならぬ筈であった。東京パレスはそれに応えて、革命的な新風をおこしたのである。その上、ありきたりのパンパンよりも安直であるという大精神に於ては、窓の小さな犬小屋の非をつぐなって余りあるところ甚大な、一大業績だといわなければならぬ。美神アロハは実力の一端を示したのである。尚かつ世にいれられず、受難四年、閑古鳥がないたというのが愉快である。しかし、そうだろうな。東京から円タクをねぎって八百円かかる田ンボのマンナカの一軒屋へ、美姫二百人楚々と軽やかに踊らせた魂胆というものは、分るようでもあるし、全然分らないようでもある。よく考えると、分らんわ。
 私たちは見物席のメーンテーブルにドッカと腰かけ、ビールをのみ、美女をにらんでいた。
 私は従卒を三人つれていた。二人は志願兵であるが、一人は委託された教育補充兵で、ある人物にたのまれたのである。
「今日はちょッと難題をたのみますがな。今やわが社におきましては虫気のつかない困った人物がおりまして、ええッと、
前へ 次へ
全28ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング