ある。田ンボのマンナカの一軒屋の前へ、自家用車のごとくピタリと止る。この料金、三十円。美神アロハの配慮にソツはないのだが、異教徒は酔っぱらうとムヤミに気が大きくなって、翌朝円タクを呪うのである。
 こういう次第で、異教徒どもは離れ去り、ハレムに閑古鳥がなき、三百人の美姫のうち、目ぼしいのは去ってしまった。これ即ち、やがて巷談師の現れて福音を説けばなり、という予言を行うためである。
 私がでかけたとき、美姫は百六十何名に減っていた。あんまりお客がこないので、エエめんどくせえや、というわけか、それとも美姫の新入生でイヴニングが間に合わないのか、美姫の半数ぐらいは、昼の服装で踊っていた。
 四五人の半ソデシャツのアンチャンが美姫を相手に踊っているほかは、美姫は美姫同志で踊っている。他のダンスホールの女の子は、女同志で踊るときには、怒ったような顔をして、なんとなくヤブレカブレのように怖しい様子であるが、ここの美姫はノンビリして、充分にニコヤカである。他のダンスホールのように、男の子がすすみでてくるのを待っている女の子は一人もない。そんなシミッタレた料簡は、このホールには徹底的にないらしい。
 
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