つまり、男の子は見物させておくのだ。否。睨ませておくのだ。ジッと。男の子が踊っちゃ悪いというわけじゃない。踊りたけりゃ、柵をグルグルッとまわって、お金をだして切符を買って女の子をつかまえりゃいいんだけれども、何もそんな面倒して、お金を使って、そんなことしなくッてもいいだろう、という料簡でもあるらしい。美姫たちは男の子が踊りを所望するというようなことに殆ど興味がない様子である。
しかし、彼女らは楚々と、そして、軽々と、たのしそうに踊っている。あらわな肩に汗がジットリと、ライトに白くてりはえていても、あつそうな顔一つしない。舞台の女優と同じように、芸熱心で、又、明るい。
なんのために我々はジッと睨んでいなければならぬか。又、彼女らは我々を睨ませておくか。
我々に恋人を探させるためなのである。さては新式の張り店か、なんて失敬なことを云ってはいかん。どこの世に恋されようという料簡をもたない女の子がいるものですか。一人にも万人にも恋されたいとね。舞台の女は舞台で、散歩の令嬢は路上に於ても、恋されたいことを忘れているわけではないのさ。
三百人の美姫が、見知らぬ恋人のために、楚々と軽々と、に
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