男はようやくあきらめた。そして二幸の横の露路へ大変な慌ただしさで駈けこんでしまった。私は思わずふきだした。
 言うまでもなく、みんな嘘にきまっている。露路の奥には恐らくパンパンが待っていたに相違ない。パンパンを拾ったら、千円だという。ところが八百円しか持ち合せがない。しかしパンパンは負けてくれない。小切手を見せてもダメだ。そこでパンパンを待たせておいて交番へ二百円かりにきたわけだ。二百円かりて小切手を預ける。これぐらい安全な保管所はない。一石二鳥というものだ。すでに飲んだ酒の勘定なら、八百円の有り金まで持たせたまま、お供もつけずに外へ出すはずがないじゃないか。
 慌ただしく駈けこんだまま再び姿を見せなかったところをみると、八百円でパンパンを説得するのに成功したのだろう。
 路上でねているのを拾われてきた酔っ払いが交番の前にねせてある。小便は垂れ流し、上半身はヘドまみれ、つまり上下ともに汚物まみれで、これなら介抱窃盗も鼻をつまんで近よらないだろう。とても交番の中へ入れられないので、前の路上へねせておくわけだ。まったく昏酔状態で、いつ目覚めるとも分らない。
 ちょッとした交通事故が一
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