じゃないか。
 この先生にしたって、本当に勘定を払う気持があるなら、このまま家へ帰って、明朝返しにくるがいい。交番へ二百円かりにくることはありやしない。
 男はしかしそんな不合理は意に介していないらしい。小切手を交番の机の上へおいて、
「ね。小切手をお預けしますよ。明朝銀行が開きさえすりゃ現金になるんですから、現金にかえてお返ししますよ。これをカタに二百円たてかえて下さい」
「交番では、そういうことをするわけにいきません」
「なに、あなた、個人的に一時たてかえて下さいな。小切手をお預けしますから」
「お金はお貸しできませんが、勘定の話はつけてあげますから、店の者をつれてきて下さい」
「それが交番はイヤだてえんで、こまったな。いいじゃないですか。二百円かして下さいな。この小切手お預けしますよ。交番だから信用してお預けするんですよ」
「とにかく店の者をつれてらッしゃい。二百円は店の貸しにするように、話をつけてあげますよ」
「そうですか。困ったなア。来てくれりゃ、いいんですが、来ないんですよ」
「じゃア何か品物をカタにおいてお帰りになったらいかがです」
「そうですなア。じゃア、そうしましょう
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