見かける女ではない。
こういう奇怪な人物が酒場を経営し、女給に命じてお客をタックルさせ、前後不覚の客に飲み物を押しつけて売るというのが、新宿の公然たる性格なのだから穏かではない。
タックルしてくる客がお金があろうがなかろうが構わない。むしろお金のない方がいいらしいようでもある。金のカタにとれそうな外套や時計やカバンなど持ってればOKというわけだ。
どの店なのか定かに記憶のない仁もあろうし、盗られたのか、忘れたのか、カタにおいてきたのか前後不覚の仁もあろうし、外套やカバンならお金を工面して取り返しに行くだろうが、時計などだとそれなりにしてしもう。ビール一本か二本の話で、バカげた話だけれども、酔っ払いというものは身からでた錆、災難とアキラメル精神の持主でもあるから、酔ってモウケた話などはないものだ。損するものと心得て、合の手に禁酒宣言などやってみるが、性こりもないものだ。
介抱窃盗というのは明かに犯罪にきまっているが、前後不覚のお客をさそいこんで飲み物を押しつけて所持品衣類をカタにとりあげる。山賊とか安達《あだち》ヶ原の婆アかなんかが宿屋を内職にしてそんなことをやってるワケじゃなく
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