らない酒場へひきずりこまれる。ひきずりこまれるというのは客ひきの女給が街頭に無数に出ていてタックルするからだ。勘定が足りなくて、時計や上衣をカタにとられて追いだされる。
 酔っ払い先生がこれを自覚していれば良いのだが、ふと気がついて、所持品や時計や上衣のないことにだけ気づいた場合がヤッカイで、介抱窃盗にやられたのだか、勘定のカタにとられたのだか、本人が分らないからヤッカイである。
 こんなのがきた。
 酔っ払っているのは四十五六のどこかの課長さんだ。これを交番へひきずりこんだのは喫茶店のマダムで、年は三十二だと云ったが、大柄で、骨が太く、顔にケンがあり、噛みつかれそうな偉丈夫だ。男は痩せて小さくて、女丈夫に腕をとられて、文字通り、ひきずりこまれてきたのである。マダムも酔っていた。そして一人の女給をつれていた。
「無銭飲食です。勘定をとって下さい」
 と、すごい見幕でつきだした。
 その勘定というのがタッタ百円なのである。女給が街頭に出張していると、男が酔っ払って通りかかったのでタックルした。もうお酒はのみたくないというので、女給がすすめて牛乳二杯とらせた。男が一杯、女給が一杯。それが百
前へ 次へ
全50ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング