の居ない地域であるが、今は取り払われでなくなった和田組のマコの店、ここへ行くと、すさまじかった。
 しかし酔っ払って帰る時はいつもマコが駅まで送ってくれたから無事であったが、さもないと、どうなるか分らない。マコはナジミの客はみんな駅まで送ってやっていたから、私の友人はここであんまり被害をうけなかったようだが、しかし編輯者などで、ここのマーケットで裸にされたというようなのは相当数いるのである。
 そういうのは前後不覚に酔って、いつやられたか当人も知らない場合が多く、私がこのマーケットへ飲みに行っていたころも、入口出口の要所の店には、帰り客の酔態を監視している何人づれかのアンチャンが必ずタムロしていたものである。
 このマーケットは取り払われたが、その四囲のマーケットは残っており、アンチャン連の存在は今もって変りがない。
 人間が何千年の時間をかけて社会秩序というものを組みたてても、ひとたび我々の直面した敗戦焼跡の如きものがあって、無政府状態が訪れた際には、歴史は逆転して同じフリダシへ戻ってしもう。曰く、暗黒時代である。
 盛り場を縄張りとする愚連隊が、無政府状態の敗戦直後に先ず縄張りの復
前へ 次へ
全50ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング