の隣室が彼らの巣で、主として自分らの情婦をつかってツツモタセの相談をやってる。それが筒抜けにきこえる。いよいよ最後の仕上げに総勢出動のあわただしい音も、ガイセンの音も、祝盃の音も、みんなきこえて、最後に殊勲の女を情夫が愛撫する音まできこえ、首尾一貫、居ながらにして、現代劇を味っているようであった。そのツツモタセのたかってくる金が三円か五円ぐらいで、いちど十円の収穫があったとき、女が、十円札だわねえ、はじめてだわ、とシミジミ云っているのがきこえ、変に悲しい思いにさせられたものである。パンパン時代の今日の方が、むしろ女の肉体の価が高い。当時は蔭で身を売る女の数が今よりも多く、ハッキリ旗印しをあげることができなかったから、タダであったり、チップであったり、要するに値段がなかった。今のパンパンは収入の点では昔日の比ではないのである。
新宿は蒲田ほど露骨ではなかったが、盛り場としては、戦前から最も柄の悪いところであった。
しかし戦後の新宿はたしかにひどい。今は伊東に住んでいるから新宿へ行くこともないが、以前はよく行った。古い友人のやつてる「チトセ」という店は屋外劇場の方で、ここはアンチャン連
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