云うつもりではなかったのだが、ヘタな噺し家は、これだからこまる。高座で喋りながら逆上するようでは芸術家の資格がないと心得ていても、税務署に話がふれると、目がくらむのである。

          ★

 終戦後、東京いたるところの駅前にマーケットができて、カストリをのませる。よってヘベレケに酔っ払う人種があつまり、パンパンとアロハのアンチャンがたむろする。
 マーケットというところは元々売買取引するところだが、終戦後は、ここで女を買うことも間に合うし、顔を貸りられて身ぐるみまきあげる取引もあり、一つとして足りない取引がなく、みんなここで間に合うこととなった。
 私は同じ地点で二度スリにやられたが、身ぐるみはがれたことはない。一度、当時はまだ銀座が殆ど復興していなかったが、私が焼跡へでて小便していると(マーケットに便所はないです)左右からサッと二人の怪漢が近より無言のままサッと胸のポケットに手をさしいれて引きぬいて、サッと消えた。私が用を終って振りむいた時には、人の姿はどこにもなかった。
 手際の良さ、水ぎわ立った奴らだと感服したのだが、彼らは失敗したのである。私の小便の終らぬうちにと、
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