、しかもその数は決して多すぎるものではなく、今日の敗戦日本は意外に秩序が保たれていると見なければならない。けだし日本の一般庶民が性本来温良で、穏和を愛する性向の然らしむるところであるらしい。監督官庁の官僚や税務官吏が特に鬼畜の性向をもつわけでなく、一般庶民と同じ日本人なのであろうが、どうも日本人というものは元々一般庶民たることに適していて、特権を持たせると鬼畜低脳となる。今日に於ては、官僚の特権濫用の鬼畜性と一般庶民の温良性との差は甚しいものがある。批判禁止の軍人時代とちがって、批判自由の時代に於ても特権階級の専横は軍人時代と同じ程度であるから、いかに性温良とは云え、泣く子と地頭に勝てないという日本気質の哀れさは、当代の奇習のうちでも万世一系千年の伝統をもち特に珍らかなもののように思われる。アキラメや自殺は美徳ではない。税金で自殺するとは筋違いで、首をチョン切られても動きまわってみせるという眉間尺《みけんじゃく》の如くに、口角泡をふいて池田蔵相にねじこみ喉笛にかみついても正義を主張すべきところであろう。
 どうもマクラが長くなり、脱線して、何が何やら分らなくなってしまった。こんなことを
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