士が、なんで未明に家出する必要があるか、と疑えば、足りる。午前八時でも十時でも、買物に行ってきます、と云って家を出れば足ります。
 未明五時十五分に家出して、墓前へぬかずく、それを追跡する記者がある、芝居じみたことをやるものだ。そんな危険をおかす必要は毛頭ない。ただ、政治的カラクリをのぞいては。
 こんな人の理性をなめたことをやらず、真剣に、恋愛一途に没頭し、同じ家出をやるにしても、ミーちゃんハーちゃんと同じように、買い物に行ってきますと云って家出して、つつましく結婚していれば、どれぐらい素直で、人の反感を刺戟しなかったか知れないであろう。
 連日にわたってフロシキ包みを持ちだして、ミーちゃんハーちゃんと同じことをやっていながら、家出という一事のみに、代議士なみの効果を利用し、午前五時、ヘッド・ライト、墓前、線香、このイヤミは、人間がその一途の恋に於て当然そうあるべき素直さを汚すこと万々である。
 この茶番をマトモにとりあげて疑うことを知らない大新聞の推理力の不足さは決定的で、拙者の探偵小説でも読んで、大いに勉強することである。
 御両氏が政治的に失脚することを怖れての努力は当然である
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