道具立てが、ギリシャのファルスよりもナンセンスで、因果モノで、救いがないのである。
 私は日本中の新聞が発狂しているのではないかと考えた。これは多分に好意的な見方なのである。もしも発狂ではないとしたまえ。蒙昧。いくら負けた国の話にしても、やりきれないじゃないか。
 どの新聞も、あたり前のように、否、父正一氏の立場をむしろ是認して書いている。父が一生かかって果せなかった政治活動を娘にやらせているのだ、と。
 天光光氏は、公人として恋愛は不可能だと妙な声明書を発表したことがあったが、右の新聞の筆法だと、天光光なる娘は、私人のほかに公人として行動し、もう一つ、父の身代りとして、三重に生きているヤヤコシイ因果娘なのである。
 この国の憲法でも、二十になれば独立独歩の人格として、認められることになっている。
 そんな約束は別としても、何万人という人々によって選ばれた松谷天光光という代議士が、架空の人物で、親父の身代り、代弁者にすぎない、などという怪談を信じていいのだろうか。
 こんな事実が有ったとすれば、日本の悲劇、日本の蒙昧、きわまれり、というべきではないか。こんな因果娘を代議士にもつ国民の顔
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