し、結婚しても、追いつきはしない。結婚などゝいうものは、その出発の時はとにかくとして、あとは約束事であり、世間並のものであり、諦めの世界でもある。だから、結婚を処世の具に用いるぐらい、当然なことでもある。
 この自覚がハッキリしておれば、よろしいのである。
 かと云って、私は選挙対策のために結婚しました、とも云えなかろう。別に云う必要もないのである。
 しかし、処世の具でもあり、一途の恋心によってでもある、ということは成り立たない。二者併存しておれば、何のナヤミ、何の面倒があろうか。
 もしもナヤミと面倒があったとすれば、天光光氏の場合に於ては、
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一、政治的に対立するものの結婚生活が成り立つか。
二、男には妻子があった。
三、以上の理由で父が反対している。
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 ということで、すでに前々から云う通り、この骨子に関する限り、珍奇なところはないのである。骨子だけで云えば、これは一応悩むのが当然だ。当事者として、この三つに対処するナヤミのほどは、相当にもつれざるを得なかったであろう。
 一番軽率で、イイ加減なのは、厳粛なる事実
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