いるが、厳粛なる事実があるから、仕方がなかった、などゝいうのは、本末テントウも甚しいものだ。厳粛なる事実などはどうあろうとも、結婚の適、不適、二人の愛情の問題が常に主となるのが当然だ。
 天光光氏がすぐれた政治家であるなら、私生児を抱えたって、なんでもない筈なのである。しかしながら、このようにキメつけるのは残酷である。どんなに実質的に偉い政治家でも、人気商売であるから、額面通りにいかない。ちょッとした悪評で、落選する危険は総理大臣たりとも有るのだから、仕方がない。
 しかし、選挙対策として、結婚することが絶対にさけがたいものであったか、これは問題のあるところだ。
 すくなくとも、天光光氏の場合は、結婚しない方が、よかったかも知れない。そして、天光光氏は、選挙対策よりも、恋愛自体を、より重大に考えていたかも知れない。
 私は恋愛だとか結婚というものを処世の具に用いることを必ずしも悪いとは思わない。なぜなら、どんな熱烈な恋心でも、決して永遠のものでは有り得ないからだ。恋心は必ずさめる。きまりきっているのだ。もしも人間が自分の情熱に忠実でなければならないとすれば、なんべん恋愛し、なんべん離婚
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