すよ。そこ以外には秋田県でも秋田犬は見られないのです。秋田市の人が、これが秋田犬です、と自慢の犬をあなたに見せても、信用してはダメですよ。まっすぐ大館へ行きなさい。このホンモノの秋田犬こそはタダモノではありませんぞ」
というのが四人の物知りの一致した説であった。その一人が福田蘭童博士であるが、
「あなたがいくら日本犬がキライでも、ホンモノの秋田犬を見れば欲しくなりますよ。ノドから手がでますよ」
という大断言ぶりであった。
ところが、私が秋田に向って出発という時に、女房が念を押した。
「秋田の人が秋田犬の仔犬をくれると云っても貰ってきてはダメですよ。日本犬は絶望よ、見るだけでゾッとするわ」
という、これはまた念入りのゴセンタクであった。わが家の者どもが日本犬に身を切られる思いをしているのは切実であるから、蘭童博士の大断言よりもこの言葉の方が私の身にもしみるのである。
「よろしい。秋田犬はコンリンザイもらってこないが、秋田オバコを仕入れてくるぜ」
と出発した次第であった。
★
出羽の国というところは私が目下やや熱中している歴史にとっても大切な土地なのであ
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