ルな運動や訓練を忘れたせいがあるのではないかなア。
 私が秋田犬を見た時が夏の終りで、毛がぬけていつもよりも毛並のわるい時期ではあったが、そして私の見た名犬には下痢をして食のすすまぬ病犬などもいたのだけれども、私らが西洋犬を飼う時の通常の心づかいに比べて、秋田犬の育て方には合理性の欠けた、なんとなく病的な習慣的方法が感じられてならなかったのである。
 しかしホンモノの秋田の仔犬はすごいものですよ。生後五十日で買い手に渡す習慣だそうだが、小型日本犬の成犬よりもすでに大きいぐらいで、その前足などはすでに太い物干竿よりも太いぐらいである。肩の幅がそッくり二本の足を合せた太さに当り、つまり肩幅を二ツにわッて下へ二本の棒に垂らしたのが前足だという見事な太さなのである。
 結局多くの代表的な秋田犬を見たが、秋田犬保存会長平泉氏の龍号が私の趣味には一番ピッタリするものだった。黒色の秋田犬である。黒色の秋田になると、見た感じは熊のようなものだ。平泉氏は自分の代々の愛犬の毛皮を保存していたが、犬の毛皮というのもはじめて見たのだが、それが主人の愛惜の産物であるから、いじらしく、その気持は犬を愛する我々には
前へ 次へ
全40ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング