分りすぎるほど通じるものだ。
この人ぐらい秋田犬保存会長という名誉職にふさわしい人はないように思う。秋田犬に対して純粋で損得ぬきの打ちこみ方や、しかし静かでよく行きとどいた愛情など、まことに愛犬家の最高のタイプと云うことができよう。私はもしも保存会長にこのように善良で、秋田犬に対してあくまでも深く静かな愛情をそそぐ紳士の存在を知ることができなければ、心底から秋田犬の性能を紹介するだけの勇気は持てなかったと思う。
大館市でも、中型に交尾させて、東京産の代用品と同じようなものを秋田犬と称して売りだしてもいる。純粋の大型の秋田のニンシン率が低くて、ホンモノ同志の仔がなかなか育たないせいもあろう。
だから大館市の愛犬家に直接たのんでも、ホンモノの仔犬はなかなかオイソレと注文に間に合わないのが、普通かも知れない。だが、ともかく、この保存会長にたのめばいつかは間違いなくホンモノの仔犬を世話してもらえるでしょう。
ホンモノの秋田犬は、生後五十日で、一万五千円というのが大館の最低の相場だそうだ。これは中型などの交流しない純粋に大型からだけのホンモノの血統の値段で、ホンモノの秋田犬の値としては、
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