うのが定説で、それをシリメに一向に身じろぎもしないのが居ることも事実だから、やっぱり本来ケンカを好んでいるワケではないようにも思うのである。
だが、秋田犬という図抜けて大きなこの種族も、牢固たる日本犬の習性の一ツはどうすることもできないらしい。
その習性とは何ぞや、と云えば、チャチな日本犬が電信柱や木の根ッ子にムヤミに小便するように、この図体の大きな熊の親類のような奴が、やっぱり電信柱や木の根ッ子に、ふとい大足をチョイとあげて、ムヤミに小便するのである。
西洋犬はこんなことはしません。四ツ足を大地にふみしめたまま、馬と同じようにジャーと長々と小便をたれる。一度小便をすれば、一時間の散歩の途中に再び小便するようなことは殆どないものだ。
だから、西洋犬は自転車で朝晩の散歩を走らせるのは楽であるし、当然そうすべきものなのである。
ところが秋田犬は自転車では散歩させることができない。秋田犬同志で出会うとケンカする怖れがあるから綱を握って自転車にのらなければならぬ。ところが電信柱のところでチョイと立ちどまって片足をあげて小便するたび、奴メは静かに立止ったツモリでも、綱を握っている自転車
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