というところは、見どころがある。その見どころがある限りは、訓練次第で犬同志のケンカなどはサラリと忘れた性質へ持って行くことができるかも知れない。
 ホンモノの大きな秋田犬というと、人々は闘犬、ケンカを考える。東京で私に秋田犬のことを教えてくれた四人の物知りたちも、秋田犬といえば闘犬、今でも大館では闘犬が行われているようなことを私に教えた。
 そういえば私の少年時代、新潟市でも、大きな秋田犬を飼って闘犬をやらせるのがはやっていた。それは紅白のシメナワのような太いものでタスキ十字にかけたいかにも犬の力士のようなケンカの専門家という見事な押し出しであった。大館では今でもそうだということを四人の物知りは説明してきかせたのである。
 とんでもない大ウソですよ。第一、力士然とタスキ十字にからげた豪傑などは一匹もいません。一等賞の大名犬も、二等賞の中名犬も、みんなが言い合せて諸事ケンヤクを専一にこれつとめているように、実に貧弱で安ッポイ駄犬用のようなクビワをかけているだけだ。
 東京では、やせてチッポケな、ニセモノの秋田犬に横綱のようなシメナワを十字にキリリとかけて歩かせたりしているが、大館のホンモ
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