田犬の代表的なのを順次訪問して歩いて、ここにはじめて大なるものを「たしかに見た」と云わざるを得なかったね。
 大館の市長は平泉二世と同年、三十一だかの日本で一番若い市長だそうだ。助役も若い。私は市役所で彼らに会ったが、市長の留守宅で彼の秋田犬に会った時が、よッぽど市長に会ったような気分であった。
 大館には三百頭ぐらいのホンモノの大きな秋田犬がいるのだそうだ。その中で、品評会の賞をもらった犬に、左様、十頭以上、十五頭ぐらいに刺を通じ、拝謁を願ったのである。メスは昼もたいがい放しておくが、オスは動物園の猛獣のオリと同じ物に必ずおさめてカギをかけておくのである。オリの外からこれを見るとまったく猛獣そッくりだ。
 オリに入れておかないと、人間に噛みつく危険もなきにしもあらずだが、何よりも犬同志で盛大なケンカをやるのだそうだ。こんな大きな奴同志にケンカをやられては、たまったものではない。奴らは自分よりも小さい犬がいくら向ってきても相手にしないが、同格の奴を見ると、たちまち一戦を挑むのだそうだ。いくら図体が大きくても、こういうところが、やっぱり日本犬である。しかし自分よりも小さい犬を相手にしない
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