、アメリカ的な政治常識を猿マネして、国民の生活水準を高めるという政策をにわかにどの政党も一筆書きこみはじめたが、本心からそれを考え、その理想のための個人や党の総力をつくすことを真剣に考えている政治家や政党があるだろうか。国民全体の暮しを楽しく良くするために、また全体の幸福のために、ということには、自分をも国民全体の一人として見つめているシッカリした思想の足場がいるものだ。亭主が酒をのむために貧乏し、家庭生活が破壊されると云って酒の害を説き、酒の害を憂える女房や思想家や政治家は少くない。しかし、酒好きの人間が酒を楽しむこともできないという貧乏の方が悲しむべきことではないか。亭主が好きな酒をたのしんでも家庭生活が破壊されないぐらいのサラリーへ、生活水準へ高める必要のあることを考え、生活水準の低さや国民全体の貧乏を悲しむことを何よりも先に、また切実に知ることが、女房にとっても、政治家にとっても、当り前の考え方というものであろう。
 しかし、そのような当然きわまる考え方や、豊かな生活を、日本の庶民生活の歴史の跡から見出すことはむずかしい。蓮の花のひらく音に耳かたむける静寂を知り、一茎の朝顔に丹
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